健康になれる要因
健康になれる要因である健康生成論という理論があります。人は病気(病因)を引き起こす要因を探しがちですが、これは人間の健康とウェル・ビーイングを支える要因に焦点を当てた理論なのです。
この理論は、心理学者であるアントノフスキーが、1979年に発表した「健康、ストレス、対処」という本で発表したものです。その本で、人生の中で悲惨な経験をしても、適応し、克服する方法について記載しました。ナチスに捕らえられて強制収容所に収容されていた女性たちを対象に研究をするなかで、精神的に健康である者が少なからず存在することに気づき、疾病がある原因から発生するという因果関係ではなく、同じリスクにさらされながらも健康を維持、また増進させる因果関係に着目したのです。アントノフスキーが発見した健康の生成の鍵は、コヘレンス感です。
コヘレンス感は3つの感覚で成り立っています。最初の感覚は理解可能性の感覚です。これは、認知的な側面に関るもので、「たとえ困難なできごとに見舞われてもそれに圧倒されず、その出来事の意味を理解できるという信念」です。
2番目の感覚は処理可能性(manageability)の感覚です。これは行動的な側面を示す概念であり「困難に直面してもリソースが有効に働いてそれを適切に処理できるという確信」です。
最後が「意義深さ (meaningfulness)の感覚」です。これは情動的な側面を示したものであり、「困難な出来事は単に負担なのではなく、むしろチャレンジや課題だと感じる感覚」です。
私たちは生きながら、さまざまな試練を受けます。日常生活のなかでも、ストレスや苦難を感じます。試験の失敗、失恋、失業、災害、大事な人の死などはつらいものです。また、難病や障害をもった人は不自由を抱えながら生きていかなければなりません。
レジリエンスという言葉は、物理学で「弾力」や「元に戻る力」を意味します。例えば、しなやかな竹は強風にしなるけれど折れずに立ち直りますよね。このイメージが心理学にも応用されて、「心の回復力」や「折れない心」を表す概念として使われています。人によって、レジリエンスが異なることがよく知られていますが、健康生成論はこの違いを説明してくれるかもしれません。(馬場園 明)
